スールシャールによってもたらされた改革について

 

 

以前ファンの間で"United way"や"ユナイテッドらしさ"というワードがもてはやされていたことを覚えているだろうか。


モウリーニョが解任された後、暫定監督としてやってきたスールシャールはファンが待ち望んだ「攻撃的なフットボール」を展開し、ファーガソン時代を彷彿とさせた。


そしてその時期に盛んに言われていたのが"United way"であり、"ユナイテッドらしさ"というワードである。

(偶然にもその頃にブログを書いていたので一応貼っておく)

ユナイテッドらしさとは、スールシャール解任の是非について - ヨーグルト·ホリック

 

あれから約2年、スールシャールという旗頭を得たユナイテッドは少しずつではあるが変革が進みつつある。

 

・英国籍選手と若い選手をメインにした的確な補強

・選手の個を最大化するアプローチとマン・マネジメント

・アカデミーの改革、拡充

・OBのスタッフ登用

・Football DirectorとTechnical Directorの新設、体制の整備

etc...

 

これらの変化はスールシャールの就任によって活性化された動きによる産物であり、ユナイテッドがようやく現代的なフットボールクラブに近付いてきたと言えるだろう。


そして、これまでのスールシャールの働きを包括的に捉えると"ファーガソン路線の継続"と"旧態依然であったクラブのアップデート"を並行して進めているとも言える。

そしてこの"ファーガソン路線の継続"と"旧態依然であったクラブのアップデート"という目標についてはファーガソン勇退後、フロントが長い期間に渡って取り組んできたものであり、2大目標であったと言っても過言ではない。


何故ならば、この2つの目標がファーガソン勇退後におけるクラブの2大目標であったと仮定すると、モイーズ→LvG→モウリーニョという迷走とも言える継投も少しの意図が見て取れるからだ。

少し偏った、無理のある見方ではあるのだが、ファーガソン後からスールシャール招聘までの間にクラブを率いた3人の監督について、フロント陣は、モイーズには安定的な長期政権、つまりは"ファーガソン路線の継続"を、LvGには後の成功の基盤となるようなチームを創り上げる"クラブのアップデート"を、モウリーニョにはタイトル請負人として、常勝軍団であった"ファーガソン路線の継続"を期待していた。

もちろんこの3つの監督選考が安直なものであったこと、そして失敗という結果に終わったことは間違いないのだが、フロントは監督選考において2大目標の達成を軸としていたと言ってもいいのではないか。そして、この3人の監督は2大目標を並行して遂行する素質を持ち合わせていなかったからフロント陣からのサポートを得られずに失敗に終わったとも言えるのではないか。

そうした中で突如暫定監督として現れたスールシャールは、"ファーガソン路線の継続"と"旧態依然であったクラブのアップデート"というクラブの2大目標に必要な要素を上手く細分化し、取り組みとして実行するコンサルタント的な能力を持ち合わせた人材であった。

もちろん世界最大のクラブの1つであるユナイテッドが優秀なコンサルタントを持っていないわけがないだろうが、この数年間で度々指摘されてきたように、これまではグレイザー家やウッドワードらフロント陣の重商主義フットボールへの知識不足、そしてファーガソン時代の成功を知る人材の不足によって改革が上手く立ち行かなかったのだろう。

クラブ内外から支持の厚いレジェンドOBとしての立場やファーガソンから受けた薫陶を利用しつつ、長年叶わなかった改革を次々と実行することが出来るスールシャールは稀有な人材であると言える。


最近新設されたFootball DirectorとTechnical Directorについては人選が確かなものであったかを判断するために時間が必要だろうが、それ以前に実行されたクラブのスタッフの拡充やアカデミーの改革、補強ターゲットの選定などでは着々と効果を見せ始めている。


さらにスールシャールは、ウッドワードやモウリーニョとは異なり、自身の権益のために膨大なタスクを一人で抱えようとはしない。世界的なビッグクラブであるユナイテッドに必要なタスクを個人でこなすのは無理なこと、むしろ機能不全を引き起こす原因になる、と理解しているのだろう。これは選手とスタッフ、2つの視点からクラブを見てきたスールシャールが持つ大きなストロングポイントである。

またタスクの分担を明確化し意思決定を迅速化させると同時に、クラブの至るところにクラブのカルチャーを深く理解しているOBを配置することで、ユナイテッドの長年の課題の1つであった"意思決定プロセス"においても"ファーガソン路線の継続"と"旧態依然であったクラブのアップデート"を成し遂げようとしている。


アカデミーから優秀な選手が輩出されなくなってきたことや、膨大な補強予算を間違った選手に投じ続けていたこと、意思決定プロセスがパンク状態であったことなどの課題に対し、

"ファーガソン路線の継続"と"旧態依然であったクラブのアップデート"という視点からクラブの改革を進め、クラブのリソースを最大化する。これこそがスールシャールがこれまで3年近くの期間に渡って行ってきたことであり、今後もこの路線は続いていくだろう。

 

 

現在、世界は新型コロナウイルスの影響もあり、あらゆるものを取り巻く環境が変化し、将来の予測が困難になっている「VUCAの時代」に突入している。VUCAとは「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の4つの単語の頭文字から成る略語であるが、より高度なビジネスやICTが流入することでフットボールの世界にも「VUCAの時代」がやってくる。

「VACAの時代」にはあらゆる角度からの現場レベルの臨機応変な判断やリソースの最大化が求められる。

これはスールシャールの出現によって加速した改革と重なる部分が大きく、ユナイテッドで進んでいる改革の方向性は間違ったものではないと言えるだろう。


また一方で、ようやく始まったこうした改革は、シティやチェルシーリヴァプールではとうの昔に行われたことであろうし、周囲のビッグクラブと比較すると年単位の遅れが生じているだろうことも事実である。

資金力というリソースの観点からは他の追随を許さないユナイテッドがリソースの最大化に真剣に取り組むことでその遅れをどれだけ取り戻すことが出来るのか。

 

また、今後はスールシャールの個人能力に依存している面を組織でカバー出来るような体制を整えていくことが必要であり、数多くのOBや専門家が登用されていくことが予想出来る。

もちろんスールシャールが"第2のファーガソン"として長期政権を築き上げてくれるのであれば何ら問題はないのだが、成功の再現性を求めることが安定への第一歩であり、スールシャールと袂を分かった後にも"ファーガソン路線の継続"と"旧態依然であったクラブのアップデート"がクラブの軸として継承され、続けなくてはならない。

 

これからもどのような改革が進んでいくのか注目していきたいと思う。